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フランスの修行の旅から帰国した源太は、志葉の屋敷を訪れた。久方振りの幼馴染との再会に、積もる話に花が咲く。ふと気づけばとうに日は暮れており、黒子たちが用意した夕食で酒を交えながらの晩餐となっていた。
互いに気を遣わぬ男二人、普段はあまり酒を呑まない丈瑠もこのときばかりは杯が進んだ。はるばるヨーロッパまで修行に行ったわりには以前とあまり変わらぬ源太の様子に、丈瑠は「お前、ちゃんと修行してきたのか?」と冗談混じりに諌める。その一方で丈瑠もやはりそう変わっておらず、しかし外道衆との戦いに必死だった頃にはあまり見ることができなかった余裕が今は端々に現われており、そんな幼馴染の様子に源太はホッと胸をなでおろしていた。
実は外道衆・血祭ドウコクを倒した後、集っていた侍の面々が去ったこの屋敷は、子供の頃に見た思い出のごとくさぞかし寂然としていることだろうと心配していたのだ。だが意外にもそこには一輪の花が閑寂な志葉家に彩りを添えていた。ことはである。地元京都の高校を卒業し東京の大学に進学したことはは、その下宿先をこの志葉家に構えていた。まだ1年次の彼女は学校の授業が忙しく、そのまじめな性格も手伝ってあまり屋敷にいることはないようで今日も姿が見えなかったが、それでも男所帯の志葉家に紅一点の花の存在は大きかった。屋敷自体が明るく柔らかな雰囲気を醸し出しているような感じがするから不思議なものである。
気持ちよく酒が進みほろ酔い気分になった二人は、廊下に出た。そして中庭を見渡しながら「よくこの庭に忍び込んでチャンバラごっこしたよなあ」などと昔話を持ち出して、二人で笑っていたときだった。廊下の端に人の気配がし、丈瑠の顔が引きつる。丈瑠の過敏な反応に、怪しいものかと源太は身構えた。
だが、そこに現われたのはことはだった。大学から帰ってすぐに汗を流したのだろう、その姿はパジャマ一枚、羽織ものもなく、かろうじて肩に小さめのタオルが掛けている程度。髪はこれから自室で乾かすのか、しっとりと濡れていた。まだ体がほてりが冷めていないせいで頬はほんのりと桜色に染まり、久々に見た仲間の姿に驚き、そして少し送れて無邪気な笑顔を浮かべる。
「ことはちゃん!」
「源さん、お久しぶりです!殿さま、お先にお風呂いただきました」
彼女を最後に見てから三年半という月日が経ち、当時はまだ少女然としていた彼女も立派に年頃の女性に成長していた。はんなりとした雰囲気さえ伺わせるのは、彼女の性格の顕れだろうか。だが、本人にその自覚はあまりないようである。
「彦馬さんから源さんが来てはるって聞いたから、あとで会いに行こうと思うてたんよ。ゆっくりしとってくださいね」
「おう!ことはちゃんも風邪ひかないように、しっかり髪乾かしてきなよ!」
風呂敷を抱えパタパタと小走りに自室に戻っていくことはの姿をにこやかに手を振って見送った源太は、ふと隣で固まっている丈瑠に気づいた。おい、と小突くと、幼馴染は溜息をつく。
「なんだよ、その溜息は?」
「毎日あの格好で屋敷をうろつかれてみろ、溜息もつきたくなる」
「そっか?いいモン見さしてもらったけどな」
心底嫌そうな顔をする丈瑠に源太は首をかしげた。確かに若い男、それも家族ではない他人のいる屋敷で湯上りの薄着という格好は無防備すぎるとは思うが、それも一つの目の保養である。艶やかな姿を思う存分見せてもらって、男としては得をした気分だ。それを、この幼馴染はなぜこうまで嫌がるのか。だいたい家臣の侍たちがこの家に集っていたときだって、ことはも、当時同じくらいの年齢だった茉子も同じような格好でうろついていたではないか!
不可解な表情を浮かべる源太に、丈瑠は声を張りあげた。
「毎日だぞ!こっちにも身にもなれ、少しくらい自覚しろっていうんだ…」
そして、突然頭を抱えながら「アイツは見た目より結構胸があるんだ」やら、「毎日稽古しているから筋肉質かと思ったら、手足が異常に細いんだ」やらと、ぶつぶつと文句のように呟き始めた。酒が入っているからか気を許している幼馴染が相手だからか、普段なら表に出さぬような言葉もつらつらと出てくる。しまいには、「大学でも他の男に無防備に肌を晒しているんじゃないか」と余計な心配までしだす始末である。
そんな幼馴染の様子を源太はしばらく呆然と眺めていたが、突然ハッと笑い出すと、幼馴染の背中をバンバンと叩いた。当主の影武者として志葉家を守ることに必死だった彼は、以前は彼女たちのそういった様子が目にも入らなかったのだろう。戦いが終わって、ようやくそういったことに気が回るようになったのだ。
「はーん、丈ちゃんも男だねぇ」
普通よりもはるかに遅い思春期を迎えた男に、源太はその後しばらく笑いが止まらなかった。
互いに気を遣わぬ男二人、普段はあまり酒を呑まない丈瑠もこのときばかりは杯が進んだ。はるばるヨーロッパまで修行に行ったわりには以前とあまり変わらぬ源太の様子に、丈瑠は「お前、ちゃんと修行してきたのか?」と冗談混じりに諌める。その一方で丈瑠もやはりそう変わっておらず、しかし外道衆との戦いに必死だった頃にはあまり見ることができなかった余裕が今は端々に現われており、そんな幼馴染の様子に源太はホッと胸をなでおろしていた。
実は外道衆・血祭ドウコクを倒した後、集っていた侍の面々が去ったこの屋敷は、子供の頃に見た思い出のごとくさぞかし寂然としていることだろうと心配していたのだ。だが意外にもそこには一輪の花が閑寂な志葉家に彩りを添えていた。ことはである。地元京都の高校を卒業し東京の大学に進学したことはは、その下宿先をこの志葉家に構えていた。まだ1年次の彼女は学校の授業が忙しく、そのまじめな性格も手伝ってあまり屋敷にいることはないようで今日も姿が見えなかったが、それでも男所帯の志葉家に紅一点の花の存在は大きかった。屋敷自体が明るく柔らかな雰囲気を醸し出しているような感じがするから不思議なものである。
気持ちよく酒が進みほろ酔い気分になった二人は、廊下に出た。そして中庭を見渡しながら「よくこの庭に忍び込んでチャンバラごっこしたよなあ」などと昔話を持ち出して、二人で笑っていたときだった。廊下の端に人の気配がし、丈瑠の顔が引きつる。丈瑠の過敏な反応に、怪しいものかと源太は身構えた。
だが、そこに現われたのはことはだった。大学から帰ってすぐに汗を流したのだろう、その姿はパジャマ一枚、羽織ものもなく、かろうじて肩に小さめのタオルが掛けている程度。髪はこれから自室で乾かすのか、しっとりと濡れていた。まだ体がほてりが冷めていないせいで頬はほんのりと桜色に染まり、久々に見た仲間の姿に驚き、そして少し送れて無邪気な笑顔を浮かべる。
「ことはちゃん!」
「源さん、お久しぶりです!殿さま、お先にお風呂いただきました」
彼女を最後に見てから三年半という月日が経ち、当時はまだ少女然としていた彼女も立派に年頃の女性に成長していた。はんなりとした雰囲気さえ伺わせるのは、彼女の性格の顕れだろうか。だが、本人にその自覚はあまりないようである。
「彦馬さんから源さんが来てはるって聞いたから、あとで会いに行こうと思うてたんよ。ゆっくりしとってくださいね」
「おう!ことはちゃんも風邪ひかないように、しっかり髪乾かしてきなよ!」
風呂敷を抱えパタパタと小走りに自室に戻っていくことはの姿をにこやかに手を振って見送った源太は、ふと隣で固まっている丈瑠に気づいた。おい、と小突くと、幼馴染は溜息をつく。
「なんだよ、その溜息は?」
「毎日あの格好で屋敷をうろつかれてみろ、溜息もつきたくなる」
「そっか?いいモン見さしてもらったけどな」
心底嫌そうな顔をする丈瑠に源太は首をかしげた。確かに若い男、それも家族ではない他人のいる屋敷で湯上りの薄着という格好は無防備すぎるとは思うが、それも一つの目の保養である。艶やかな姿を思う存分見せてもらって、男としては得をした気分だ。それを、この幼馴染はなぜこうまで嫌がるのか。だいたい家臣の侍たちがこの家に集っていたときだって、ことはも、当時同じくらいの年齢だった茉子も同じような格好でうろついていたではないか!
不可解な表情を浮かべる源太に、丈瑠は声を張りあげた。
「毎日だぞ!こっちにも身にもなれ、少しくらい自覚しろっていうんだ…」
そして、突然頭を抱えながら「アイツは見た目より結構胸があるんだ」やら、「毎日稽古しているから筋肉質かと思ったら、手足が異常に細いんだ」やらと、ぶつぶつと文句のように呟き始めた。酒が入っているからか気を許している幼馴染が相手だからか、普段なら表に出さぬような言葉もつらつらと出てくる。しまいには、「大学でも他の男に無防備に肌を晒しているんじゃないか」と余計な心配までしだす始末である。
そんな幼馴染の様子を源太はしばらく呆然と眺めていたが、突然ハッと笑い出すと、幼馴染の背中をバンバンと叩いた。当主の影武者として志葉家を守ることに必死だった彼は、以前は彼女たちのそういった様子が目にも入らなかったのだろう。戦いが終わって、ようやくそういったことに気が回るようになったのだ。
「はーん、丈ちゃんも男だねぇ」
普通よりもはるかに遅い思春期を迎えた男に、源太はその後しばらく笑いが止まらなかった。
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あまり頻度は高くありませんが、瞬と混ざるのでお気をつけて(笑)