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 所狭しと屋台がたち並ぶ参道を、丈瑠は人の波をかき分けながら早足で歩いていた。あたりを見回しても、目標はなかなか見つからない。
「まったく…」
 一度立ち止まって溜息をひとつつくと、丈瑠は再び歩き出した。
 
 その日、丈瑠ら5人の侍たちは地元の神社の夏祭りに訪れていた。規模の大きな神社のため出店の数も多く、人出もかなりのものだった。人ごみをかきわけ、時には出店を冷やかしつつ何とか拝殿に辿り着き、平和と勝利、志葉家の繁栄を祈願し終えた5人は、待ってましたとばかりに出店のほうに繰り出した。
 各々興味深い屋台を覗きつつ、歩みを進める。女性陣の華やかな浴衣姿もさることながら、丈瑠と流之介の浴衣姿もまた艶やかで周囲からも目立っていた。その中で千明はひとり普段と変わらぬ服装で軽快に先を行く。なかなか来ない他の者たちに「浴衣なんか着てくるから!」と文句をたれ、それが流ノ介の反感を買った。
「浴衣の何が悪い!千明、おまえだって毎日のように袴着ているだろう!」
「こっちのほうが機能的で動きやすいって言ってるだけじゃねーか!」
言い合いは、そのままそばにあった金魚すくいの勝負へと発展していく。
 そんな二人の様子を丈瑠と茉子は呆れ顔で見ていたが、ふと一人足りない事に気づいた。
「あれ、ことは?…ことはがいない!」
 周辺を探すが、ことはの姿は一向に見えない。
「どこかではぐれちゃったのね。私、探してくる!」
 茉子が駆け出そうとしたが、丈瑠はそれを引き止めた。
「いや、俺が行こう。茉子はあっちの二人の面倒を頼む」
 ぎゃーぎゃーと騒ぎながら勝負を繰り広げる二人を指差し、茉子が頷いたのを確認すると、丈瑠は踵を返した。

「まったく…」
 大きな神社はあるが、千明と流之介が勝負を始めた金魚すくいの店は拝殿からそんなに遠い距離ではない。人波に流された可能性もあるが、いくら人ごみが苦手とはいえこれだけ探しても見つからないことはのそそっかしさに、丈瑠は呆れた。本当に世話が焼ける。しかし、不思議とそれを疎ましく思うことはなかった。素直で何事にも一生懸命とりくむ彼女の性格がそれを緩和させ、かえって好印象を与えているのだろう。それにいつもにこにことして、好奇心旺盛で、人への気配りもよくできていて…とそこまで考えたところで、丈瑠は自嘲した。ずいぶんと買いかぶったものである。とはいうものの、悪い気はしない。
 一家臣に対する感情にしては過ぎたものだ、という自覚はあった。しかしそれは恋心というにはずいぶんと物足りない、どちらかといえば兄妹愛というほうが近いようなものである。もし妹がいたらこんな感じなのだろうか、と丈瑠は思う。
 そんなことを考えるうちに出店の途切れた辺りまで来た丈瑠は、ようやく隅のほうにきょろきょろとあたりを見回す黄色い鮮やかな浴衣の少女の姿を見つけることができた。
「おい」
 丈瑠は後ろからそっと近寄って、少女の頭を小突く。その少女――ことはは「殿さま!」と一瞬驚いた顔をしたが、すぐに申し訳無さそうな表情を見せた。
「ごめんなさい、うち…」
 泣きそうなのを唇を噛んで我慢している表情。かわいいと思う。安心すると同時に頬が緩みそうになるのを誤魔化すために丈瑠は「行くぞ」とだけ口にすると、ことはの手首を掴んだ。
「え…?」
 突然のことにことはは驚き手を引こうとしたが、それを無視して強引に歩き出す。

 そのとき夜空がぱあっと明るくなった。「あ、花火」ことはの気が手からそがれ、自然と手の力も抜けた。それに気づいた丈瑠は、ことはの手をきちんと握りなおす。「もう迷子になるなよ」 空を見上げながら、丈瑠が静かに告げる。「はい、もう迷子になりません」 ことははそう返すと、素直に手を預けてきた。
 やがて茉子の姿が見えたところで、ことはは丈瑠の手を離して駆け出した。
「茉子ちゃん!」
「どこいってたの、ことは!」
「かんにんなー、うち、人ごみ苦手で」
 流ノ介と千明も勝負を終えたのか、寄ってきてことはの頭をぐりぐりと撫でまわす。

 仲間たちと戯れることはの姿を遠目に見ながら、丈瑠は先ほどまであったの温もりを探すかのように手を握り締めた。


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始まりは、そんな些細な感情からだといいな。
この二人は恋人というより兄妹というほうがまだまだしっくりきますね。

初シンケンSS。まだまだそれぞれのキャラクターをつかめきれていませんorz
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